細木●子がバカ売れだ。

昨日、TVで特番か何かに出たのか、今日は彼女の本があれこれ売れた。
僕は占いをあまり信用していない。
タロット占いだけ高校時代に苦い思い出があり信じていたりするが、
基本的に、販売している占い本の類は信用していない(爆)。

まあ、しかし世間は●木数子である。
右を向いても細●数子。左を向いても細木●子だ。

どこの本屋でも山積みの文庫本がある。
六星占術を用いた暦としても仕えるアレで、
これのせいで書店ではこの時期、お客様に対し、
書店員が、

「お客様は火星人です!」

と大声で言ったりするシーンによく出くわす。

細●数子の占いのシステムは少々厄介で、水星人やら火星人やら
誕生日を元に、自分の星を探さねばならない。

火星人
水星人
木星人
金星人
土星人
天王星人
霊合星人

上記の星に個人が区分されるわけだが、
去年からなぜか全ての星を買って帰るおばあさんが増えた。
近所で配るのか、とか思っていたわけだが、
どうも星の計算表などを見ていない。
なんか変だね、とパート共々首を傾げる。

そして、今日、1時くらいに5人連れのおばあさんが来て、
まっすぐに細●数子のコーナーへ。
そこで上がる黄色い歓声。

「この人の言うてる奴、当たるんやでぇ!」
「●●さん言いはるんやから、ホンマやろうなァ」
「ホンマホンマ、今年はだいぶと助かったんやわァ」

店内に響き渡る声。
幸いというか、あいにくというか、お客様はそれほどいない(うちは夜がメイン)。
まあいいか、とそのまま騒ぎまくるおばあちゃんたちを放置して品出しにいそしむ。

と、聞こえてきた●●さんの声。

「ほな、全部買いや」

全部?
ああ、全部買って帰るパターンか。
4X7で28冊。かなりおいしい。うしししっとなる我々。

「ええ、全部ゥ?」

それまで●●さんを讃えていたお友達からしぶる声が出始める。
1冊が560円。7冊となると3920円だ。
一人、約4000円。高い買い物である。

「何言うてるの、毎日の運勢がわかるんやでぇ。
 細●さんの言うとおりにしたら間違いあれへん」

ちょっと強引だなァ。
皆の空気が微妙になる。

と、一人がこう訊いた。

「これ、なんで全部買わないとあかんのん?」

むっ?人にあげるとかではないのか。
ならば当然の問いである。
一人につき1冊でいいのだから。

「あかんあかん、あんた全部買わな、毎日の運勢わからんがな」

む?

「これはな、木曜日には木星人。金曜日には金星人で、その日を見るんや。
 だから、全部買わんと。ほら、そやから7冊あるんやで」

顔を見合わせる●●さんの友人たち。
そして我々、書店員。



使い方、間違ってるやんΣ(^▽^;;;




●●さんは「さっささ、早く買い」と7冊本を取り、いちばん近くにいる友達にそれを差し出す。
にこにこと笑う●●さん。
困惑するその友人4人。
頭の中にはこのお金でどれだけの食費になるのだろう、
という問いか。

ここで迷うのは我々だ。
「1冊でいいんですよ」
と、ひとこと言えばいいんだが、●●さんは自信満々。
自分は間違ったことは言ってへん、という笑顔。
満面の、笑みである。

どうしよう、どうしよう。
パートさんもこちらを見ている。
同僚もこちらを見ている。
俺に言えと君ら、言うんか。

目が合った。
●●さんと目が合った。
にっこりと笑った●●さん、僕に向かって

「なあ兄ちゃん、これ全部買わんと意味ないやんなァ!」

あう。
あううう・・・
意を決した僕。

「いや、それは・・・・・」

と、お友達カルテットの一人がぼそりと、

「月曜日と日曜日がないやない」

そう、ない。月星や日星などといった星はない。
月と太陽である。
細木●子はそれを対象とはしていない。
いや、それどころかこんな買い方をしているとは・・・もしかしたら思っているかも。

「それは、天王星人と霊合星人で・・・」

●●さん、少しトーンダウン。
自己解釈で使用されていたのか。

「ん?これ見てみ」

カルテットの一人が、霊合星人を手に取る。
霊合星人は少し特殊であまり存在しない。
そのために本の使用法が違う。
そのため、置いてあるケースには「霊合星人の方へ」という紙が貼られている。

いいところに気づいた。
そこで、気づいてくれ!

そして、決定的な一言がカルテットの一人から発せられる。
さっきからその人は一生懸命、本の中を見て内容確認をしていた。

「これ、なんか計算して自分、何星人か調べなあかんて書いてあるで」

ホッとするカルテット。
しかし、彼女たちはハッとして●●さんを見る。
●●さん、顔が青ざめ、そして紅潮。

そして、



「なんやてぇ!!!!!(怒)」




ここで僕も勇気を出し(遅いか?)、

「それは、一人1冊で十分です。本の中に、星取表があるので・・・」

●●さんの声が僕の胸を突く。



「わたし、全部、買ったがな」



知らんがな!

とは思ったが、苦笑いしかできない。

「そんな説明どこにも書いてなかった」

僕に詰め寄る●●さん。想定内だ。
と、見かねたカルテットのお一人が、ページを開き、星取表を見せる。

「ここに書いてあるで」

沈黙。
そして、



「だってその表、なんかむつかしかったから無視してんもん!!!」



知らんがな。

●●さんはつぶやく。

「文句言うたる」

責任転嫁。想定内だ。
我々に緊張が走る。買ったのはうちの店なのか。

「今から紀伊国屋行ってくる。レジの人、何にも言わんかった」

歩き出す●●さん。
かなりのお怒りモード。

その背中を見送ったカルテットの一人がぽつりとつぶやいた。



「自業自得やないの」



ほんまにねぇ、と店内にいる全員に笑顔が溢れる。

当然それは、苦笑い、であった。

コメント